早く両親に死にわかれて、伯父の家に引き取られて育った、二十のおすみ。
履物問屋をしている伯父に出店をまかされ、一人、住み込みで暮らしていますが、
半年ほど前に伯父がまとめた縁談で、店に品物を納めている下駄職人の勝蔵(かつぞう)と、いずれ所帯を持つことが決まっていました。
裏口の戸を閉めに行ったおすみは、薄ぐらい猫の額ほどの土間に、男が蹲っているのを見つけ、思わず叫び声をたてそうになります。
男は蹲ったまま「声をたてないでください」と囁き、おすみは男がまだ二十過ぎの若い男で、堅気の者らしいことを見さだめる余裕を取り戻します。
男を追っているらしい足音がゆっくりと近づき、裏戸の外で止まったとき、おすみは一度はおさまった胸の動悸が、またぶり返しました。
足音は、長い間そこに立ち止り、また静かに離れて行くと、おすみは男に、すこしほとぼりをさましてから帰るよう囁きます。
おすみが入れたお茶をむさぼるように啜った男は、町なかで喧嘩をして相手に追われていると説明し、丁寧に礼を述べると店を出て行きます。
思いがけなく若い男をかくまって、おすみは疲れたような気持になりました。
読み手:青山友紀アナウンサー
履物問屋をしている伯父に出店をまかされ、一人、住み込みで暮らしていますが、
半年ほど前に伯父がまとめた縁談で、店に品物を納めている下駄職人の勝蔵(かつぞう)と、いずれ所帯を持つことが決まっていました。
裏口の戸を閉めに行ったおすみは、薄ぐらい猫の額ほどの土間に、男が蹲っているのを見つけ、思わず叫び声をたてそうになります。
男は蹲ったまま「声をたてないでください」と囁き、おすみは男がまだ二十過ぎの若い男で、堅気の者らしいことを見さだめる余裕を取り戻します。
男を追っているらしい足音がゆっくりと近づき、裏戸の外で止まったとき、おすみは一度はおさまった胸の動悸が、またぶり返しました。
足音は、長い間そこに立ち止り、また静かに離れて行くと、おすみは男に、すこしほとぼりをさましてから帰るよう囁きます。
おすみが入れたお茶をむさぼるように啜った男は、町なかで喧嘩をして相手に追われていると説明し、丁寧に礼を述べると店を出て行きます。
思いがけなく若い男をかくまって、おすみは疲れたような気持になりました。
読み手:青山友紀アナウンサー