三年前までは小さくとも店を持ち、古道具屋の商いをしていた辰蔵は、
母親の病気をなおすために惜しまずに金を使い、いつの間にか高利の借金にまで手を 出していました。
その母親が死ぬと、待っていたように借金取りが押しかけ、家屋敷は人手に 渡ってしまい、
辰蔵は女房のおきくと裏店でほそぼそと暮らしながら、ここ一年ほどは ずっと日雇い仕事に出ていました。
ある日、めずらしく機嫌のいい顔をして帰って来た辰蔵は、
「仲間ができてよ」とおきくに言って 年下の安之助という日雇い仲間の話を始めました。
そんな話ではなく、もう一度店を 持とうというような話をしてもらいたい―そう思っているおきくに辰蔵は
「そのうち、一ぺん家に引っぱって来るからよ」と、安之助の話を続けました。
おきくは「いいよ、そんなひとを連れて 来なくとも」と言いながら、どうやら、みんなに気に入られている年下の人気者に声をかけられて、
家まで顔をほころばせて帰って来た亭主を、やはり甘い男だと思いました。
だから借金が たまると、ひとがんばりもできずに、家屋敷を明け渡してしまったのだと。
しかし、その安之助を 辰蔵がほんとに連れて来たとき、あら、亭主が言ったとおりだったと思ったのです。
おきくは辰蔵が、 仲間だ仲間だと言った気持がわかるような気がしました。
読み手:小川香織アナウンサー
母親の病気をなおすために惜しまずに金を使い、いつの間にか高利の借金にまで手を 出していました。
その母親が死ぬと、待っていたように借金取りが押しかけ、家屋敷は人手に 渡ってしまい、
辰蔵は女房のおきくと裏店でほそぼそと暮らしながら、ここ一年ほどは ずっと日雇い仕事に出ていました。
ある日、めずらしく機嫌のいい顔をして帰って来た辰蔵は、
「仲間ができてよ」とおきくに言って 年下の安之助という日雇い仲間の話を始めました。
そんな話ではなく、もう一度店を 持とうというような話をしてもらいたい―そう思っているおきくに辰蔵は
「そのうち、一ぺん家に引っぱって来るからよ」と、安之助の話を続けました。
おきくは「いいよ、そんなひとを連れて 来なくとも」と言いながら、どうやら、みんなに気に入られている年下の人気者に声をかけられて、
家まで顔をほころばせて帰って来た亭主を、やはり甘い男だと思いました。
だから借金が たまると、ひとがんばりもできずに、家屋敷を明け渡してしまったのだと。
しかし、その安之助を 辰蔵がほんとに連れて来たとき、あら、亭主が言ったとおりだったと思ったのです。
おきくは辰蔵が、 仲間だ仲間だと言った気持がわかるような気がしました。
読み手:小川香織アナウンサー