江戸の定回り同心笠戸孫十郎(かさど まごじゅうろう)は、受け持ちの町筋と自身番を回るのが役目で、
仕事の終わりに浅草三間町の小料理屋「卯の花」で、お茶を飲んで帰ることがありました。
「卯の花」の主人伊勢蔵(いせぞう)は、一方では十手取縄を預かる岡っ引で、孫十郎の父、笠戸倉右衛門(かさど くらえもん)から手札をもらい、倉右衛門の死没で、後を継いだ孫十郎から手札をもらい直した経緯があり、親子二代のつき合いでした。
「卯の花」を出た孫十郎に、「言伝がありました」と駆け寄った伊勢蔵が語ったのは、磯六(いそろく)という男の名でした。
磯六は、岡っ引でもなく、手先でもありませんでしたが、父の倉右衛門が生きている間、笠戸の家に出入りしていました。
深夜いつの間にか来ていて、倉右衛門と行燈の光の下でひそひそ話している姿を、孫十郎は何度かみていました。
父の死後、磯六の仕事がどういうものであるかを知ったとき、孫十郎は磯六とのつながりを切りました。
法に触れているが、ある事情から表沙汰にならなかった事件、法に触れる寸前で止んだ事件、
やがて事件になりそうな犯罪の芽などを拾い集めて来るのが、磯六の仕事だったからです。
読み手:山本浩一アナウンサー
仕事の終わりに浅草三間町の小料理屋「卯の花」で、お茶を飲んで帰ることがありました。
「卯の花」の主人伊勢蔵(いせぞう)は、一方では十手取縄を預かる岡っ引で、孫十郎の父、笠戸倉右衛門(かさど くらえもん)から手札をもらい、倉右衛門の死没で、後を継いだ孫十郎から手札をもらい直した経緯があり、親子二代のつき合いでした。
「卯の花」を出た孫十郎に、「言伝がありました」と駆け寄った伊勢蔵が語ったのは、磯六(いそろく)という男の名でした。
磯六は、岡っ引でもなく、手先でもありませんでしたが、父の倉右衛門が生きている間、笠戸の家に出入りしていました。
深夜いつの間にか来ていて、倉右衛門と行燈の光の下でひそひそ話している姿を、孫十郎は何度かみていました。
父の死後、磯六の仕事がどういうものであるかを知ったとき、孫十郎は磯六とのつながりを切りました。
法に触れているが、ある事情から表沙汰にならなかった事件、法に触れる寸前で止んだ事件、
やがて事件になりそうな犯罪の芽などを拾い集めて来るのが、磯六の仕事だったからです。
読み手:山本浩一アナウンサー